表千家不審菴

利休の曾孫にあたる江岑宗左が、千家に伝わる伝承を書き記した文書のなかには、次のような逸話があります。利休は高麗筒の花入を四畳半の床柱にいつも掛けていた。利休が申されるには「この筒花入、鉢開の黒茶碗と墨跡を持っていれば、山住まいをしても寂しいことはない」。高麗筒の花入は、わびた趣の南蛮物の筒花入で、利休晩年のわびを象徴する道具の一つとして知られています。また鉢開は利休七種にもあげられる長次郎作の黒茶碗です。これらの花入と茶碗、そして禅の象徴である墨跡があれば、山住まいをしても寂しくないという利休の言葉は、利休の茶の湯の理想がどのようなところにあったのかを示しています。 直接目に見る美しさではなく、その風情のなかに美的な境地や、心の充足を探求しようとする精神をもって見ることのできる美しさ、すなわち「目」ではなく、「心」で見る美しさが利休の「わび」であり、利休の茶の湯を語るキーワードともいえるでしょう。